京都地方裁判所 昭和45年(ワ)581号 判決 1970年11月06日
原告
広瀬隆彦
代理人
佐治良三
ほか三名
被告
津村利雄
代理人
上西喜代治
上羽光男
主文
被告の原告に対する京都地方裁判所昭和四二年(ワ)第一四八号株式返還請求事件判決にもとづく強制執行を許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
昭和四五年五月一日付本件強制執行停止決定を認可する。
前項にかぎり仮に執行しうる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
主文第一、二項同旨
二、被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一)、被告の原告に対する債務名義として、別紙京都地方裁判所昭和四二年(ワ)第一四八号株式返還請求事件昭和四五年一月一四日判決(以下本件債務名義判決と称する)が存在する。
(二)、被告は、昭和四五年三月二五日、本件債務名義判決主文第一項記載の株券の引渡を求める強制執行に着手したが、右強制執行は、全部不能となつた。
(三)、そこで、原告は、同日、本件債務名義判決主文第二項記載の一株につき金一四二円の割合による九、〇〇〇株分の金員(填補賠償金)として、合計金一二七万八、〇〇〇円を、被告に支払つた。
(四)、したがつて、本件債務名義判決主文第一、二項に表示されている請求権は消滅した。
(五)、しかるに、被告は、同年四月一五日、本件債務名義判決主文第一項記載の遅延損害金一六六万四、一七五円の請求と称して、原告所有の有体動産に対し強制執行をした。
(六)、よつて、原告は、被告に対し、本件債務名義判決の執行力の排除を求めるため本訴に及んだ。
二、請求原因に対する認否
(一)、請求原因(一)、(二)、(三)、(五)の事実は認める。
(二)、本件債務名義判決主文第一項後段記載の、各一株毎に昭和三九年一二月一日よりその引渡済まで(現在は、強制執行不能となつた昭和四五年三月二五日まで)金一一八円に対する一〇〇万円につき一日八銭二厘の割合による遅延損害金の請求権は、消滅していない。
第三、証拠<省略>
理由
一、下記(一)、(二)、(三)の事実は当事者間に争がない。
(一)、被告の原告に対する債務名義として本件債務名義判決(主文、一、被告は、原告に対し、京都証券取引所に上場されている東洋工業株式会社の株式九、〇〇〇株の株券を引渡し、かつ、各一株毎に昭和三九年一二月一日よりその引渡済まで金一一八円に対する一〇〇円につき一日八銭二厘の割合による金員を支払え。二、前項の株券引渡の強制執行が不能のときは、被告は原告に対し、その引渡不能の株式数につき一株金一四二円の割合による金員およびこれに対する右執行不能の翌日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。三、原告のその余の請求を棄却する。四、訴訟費用は原告の負担とする。)が存在する。
(二)、被告は、昭和四五年三月二五日、本件債務名義判決主文第一項記載の株券の引渡を求める強制執行に着手したが、右強制執行は全部不能となつた。
(三)、そこで、原告は、同日、本件債務名義判決主文第二項記載の一株につき金一四二円の割合による九、〇〇〇株分の金員(填補賠償金)として、合計金一二七万八、〇〇〇円を、被告に支払つた。
二、甲(貸主)が、乙(借主)との間に、株券消費貸借契約を締結し、株券返還を遅延したとき、返還期限における株式の時価に対する一定の割合による遅延損害金を支払う旨の約定をした場合、甲は、乙に対し、株券引渡の強制執行不能のときの填補賠償金およびこれに対する強制執行不能の日の翌日から右支払済までの法定利率による遅延損害金の支払の請求に加えて、株券引渡期限の翌日から株券引渡の強制執行不能の日までの右約定による遅延損害金の支払を請求しうる、と解するのが相当である。けだし、株券引渡の強制執行不能によつて株券引渡請求権填補賠償金に転換する当時、株券引渡期限の翌日から右転換の日までの右約定による遅延損害金債権は既に発生済であり、右填補賠償金は株券引渡期限の翌日から右転換の日までの遅延損害金を含むものでなく、既に発生済の右約定による遅延損害金債権を右転換によつて消滅させるべき理由がないからである。
三、しかし、本件債務名義判決の主文、事実、理由を綜合すれば、本件被告(貸主、右判決事件原告)は、本件原告(借主、右判決事件被告)との間に、株券消費貸借契約を締結し、株券返還を遅延したとき、返還期限における株式の時価に対する一定の割合による遅延損害金を支払う旨の約定をし、右判決事件において、本件被告は、本件原告に対し、(1)株券の引渡、(2)株券引渡期限の翌日から右引渡済までの右約定による遅延損害金の支払(株券引渡の強制執行不能により株券引渡請求権が填補賠償金に転換しない場合)、(3)株券引渡の強制執行不能の場合における、填補賠償金の支払、(4)株券引渡の強制執行不能により株券引渡請求権が填補賠償金に転換した場合における、株券引渡期限の翌日から右填補賠償金支払済までの右約定による遅延損害金の支払を請求したのに対し、本件債務名義判決は、(1)、(2)、(3)の請求を認容したが、(4)の請求については、「遅延損害金の約定は本来の株券の給付義務についての純粋な遅延損害の額の予定であるから、本来の給付義務がこれに代わる遅延損害に転換された場合には、本来の給付についての遅延損害金を別個に請求することはできず、」と判示し、填補賠償金に対する強制執行不能の日の翌日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容し、その余の請求(株券引渡の強制執行不能により株券引渡請求権が填補賠償金に転換した場合における、株券引渡期限の翌日から強制執行不能の日までの右約定による遅延損害金の支払請求を含む)を棄却したものと認めうる。
四、したがつて、本件債務名義判決主文第一、二項に表示されている請求権は一の(二)記載の強制執行不能および一の(三)記載の支払によつて消滅した。
五、よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可、その仮執行の宣言につき、同法第五四八条第一項第二項を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)